飼い主のいない猫たちの地域での共生を目指します。 生き物に優しい町は人にとっても住みやすい町。
 大きな犠牲
2008年12月03日 (水) | 編集 |
通勤途中、生ゴミの袋を一生懸命破こうとする黒猫に遭遇した。
集合住宅の前にあるゴミ置き場はゴミが散乱してとても汚かった。
いつも素通りする場所だったが、その猫に目が留まり、改めて汚さに気がついた。

小さな黒猫は必死で口と前足を使い袋を破ろうとしていた。右前足を
少しつっていた。骨折しているのだろうか。不憫に思い、餌付けを始めた。
翌日もまた翌日も同じ場所で私を待つようになった。ゴミ置き場の横に容器を置き、
水を注いだ。
3週間も通うと、その子は私の気配に気付くと小さな声で鳴くようになった。
ある日、餌をいつもの場所に置き、そっと手を出すとわき腹を撫でさせてくれた。
頭も、触らせてくれた。思い切って抱っこしてみた。抱っこも出来た。お尻をみると
女の子だとわかった。
まだ野良っ気が強かったときには、これまで何度か捕獲しようと試みたが、中々ケージに入ってくれなかった。ケージに入らず、私が行く方向に鳴いてついて来た。でも、
抱っこが出来たとき、これで普通に抱っこしてキャリーに入れ、避妊手術してもらえると
安心した。他の現場で皮膚病の子がいるが、この子を手術してからそちらの子にかかろうと
思った。皮膚病のその子はもう去勢手術も終わっていた。

病院に手術の予約をいれ、前日、お目当ての黒猫を保護しようとキャリーケースを持って
現場に向かった。現場に行くと、黒猫は、コンビニ弁当の残りを食べようと必死で
またビニール袋を破こうとしていた。私はそれをみて、どうして毎日ご飯をあげているのに
こんなに飢えているのか不思議に思いながら、餌を置いた。
量が足らないのだと思い、一旦車に戻り、常備しているカリカリと缶詰のお代りを持ってまた現場に引き返した。すると、いつもの場所にもう一匹黒ネコがいるのに気付いた。つまり、さっきコンビニ袋を必死で破こうとしていた黒猫は、いつもの黒猫ではない黒猫だったことがわかった。

捕獲器をしかけると大抵臆病な雌猫より、雄猫が先に入る。あまりなじみの無い子だったが発情期が来て喧嘩でもして大通りに出れば轢かれてしまうこともあると思い、
その雄猫を去勢手術することにした。捕獲器をしかけるとやはりその雄猫が保護できた。
大きなカッパー色の目をした尻尾の長い立派な雄猫だった。
車に乗せるとき、本当にこの子手術してよいのだろうかと一瞬頭の中に疑問が過ぎった。雄猫なら慌てることもないから、一旦元いた場所に戻し、当初から計画していたメス猫から手術しようかとも思ったが、去勢手術をすれば餌付け中に誰かに何かを言われても説明もつくし、本格的な冬が来る前にワクチンも打ってあげられると思い直し、病院へ運ぶことにした。
簡単な去勢手術、即日退院させる病院も多いし心配ないと思った。今思うと虫の知らせだった。

翌日土曜日に病院へ搬入した。翌日には退院で、元いた場所へリリースする。
その界隈は始めてのピアス猫だったので、よく目立つきれいな水色のピアスを先生に持って行った。
お目当ての雌ネコの手術が終わった頃には、現場周辺に「ピアスネコがいます」というチラシも配ろうと思っていた。

翌日日曜は日中は暖かかったので、暖かいうちにリリースしようと、1時に猫を迎えに行った。
待合室で待っていると、先生が「出血しているので返せない」と言う。
診察室へはいってペットシートを見ると多量の血がついていた。
朝まで出血していなかったと先生が言う。こんなこと初めての経験だった。
外に返す猫は一度放せば、そう簡単に捕まらない。異常があればそのまま草葉の陰でひっそり死んでゆく。2、3日入院しそのまま様子を見ることになった。
捕獲器から少し広めのケージに猫を移した。命に関わる事にはなりませんよね。と私が言うと、
それはないと思いますという返事だった。とりあえず様子を見ようと病院へ猫を残し、帰宅した。

火曜の朝、先生から会社にいた私の携帯に電話があった。猫の様子がおかしいと言う。
血圧が異常に下がり、ぐったりしている。
すぐお腹を開いて止血しないと死んでしまうかもしれないと先生が言う。心臓がドキドキした。
どうしてこんなことになったんだろう。憤りの感情がこみ上げてきた。

手術をお願いした先生は、まだ若く、最近開業されたばかりだった。
私は、自分にあまり馴染みも無い猫を簡単に捕まえ、死なせるようなことになったら
TNRなんて糞食らえと思った。
右から左へ工場の大量生産みたいに簡単に病院へ運んでいた自分は一体何をしでかしたのか。
あの子には一つの命だ。急に胸がつぶされるような思いがした。

電話を切り、いつも重篤な猫を診てもらう先生にすぐ電話を入れた。絶対死なせないと思った。
先生に事情を話し、先生に診てもらいたいと頼んだ。
重篤な猫ばかりを診てくれる先生は、若い先生のためには、その先生が最後まで責任を持って
処置するべきと言う返事だった。理屈はもちろん十分わかる。
でも自分が運んだ猫を差し出す寛大さは今の私にはない。目が真っ赤になった。

私は、同僚に頼み、病院へ連れて行ってもらった。若い先生には申し訳なかったが、
長い付き合いの先生に診てもらいたいと告げ、猫を主治医へ運んだ。
若い先生は説明ができますので私もついてゆきますと言ってくれた。

猫は脱水状態がひどく、体が冷たかった。保護時、パッツパッツと
とても元気よく私を威嚇していたのに、虫の声で小さく鳴いていた。
私は搬送中、頭や耳を触りながら「ねえ、ねえ、死なないで欲しい」と頼み続けていた。

先生たちの努力の甲斐なく、搬入してまもなく黒猫は死んでしまった。
去勢手術の方法が悪かったのではなく、元々肺と心臓に腫瘍を持っていた子だったと
レントゲンを見せながら先生が説明をしてくれた。
あんなに毛艶のよい、立派なネコが腫瘍を持っていたなんて外観だけからはとてもわからない。
こういうことをしていると必ず遭うケースだと先生が言った。そして
手術をしていなければあと2年くらいは生きられたかもしれないとも言った。絶対そうだったと
私も感じた。あの子にとって、捕獲器の中で与えた、白身魚の猫缶が最後の食事らしい食事になってしまった。

去勢や避妊手術は自然の法則に逆らう行為だ。人の都合でする猫にとっては
暴力的な行為である。
この先、多くの猫たちの手術を繰り返すうち、また必ずこういったケースに出くわすことがあると
思う。私はとても怖くなった。罪の無い動物を簡単に殺してしまう怖さと、その怖さを怖さと思わなくなるかもしれない自分の感覚の鈍化を怖いと思った。自分の家の猫が死んだらどれほど私は
泣くだろう。この子にはそんなに大量の涙を私は流さないだろう。そう思うと悪くて仕方ない。

以前東京にいたとき、自分のメスネコを避妊手術しないで、20年も大事に飼っていた同僚がいた。物静かに話す頭のよいユーモアのある男性だった。彼は免許証を持っていなかった。「どうして?」と聞くと、車なんて怖いもの、とても運転できないという返事に妙な人だと思った。私たちはくだらない冗談を言ってよく笑いあった。急にその人と話したいと思った。

引き取り時、主治医の先生がこんなことを言ってくれた。
いろんな症例の犬猫たちが病院へ運ばれます。救えず、命を落としていった子達は、私たちの宝です。
この宝を生かすも殺すも獣医師次第。私も若いときは辛い経験をしました。
宝と聞いたとき、また目が赤くなった。あの子は私にとっても宝の黒猫である。
家に帰り、箱を開けると耳につけられた水色のピアスがまた私の目を赤くした。

kuroneko

私が死なせた立派な黒猫を見てあげて欲しい。しばらく手術目的の捕獲は、休止したいと思う。

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